重症急性呼吸器症候群 (SARS) コロナウイルス(SARS-CoV)は重症呼吸器疾患を引き起こす新興ウイルスである。ワクチンや治療薬はまだ開発されていない。UV不活化SARS-CoV全粒子(UV-V)は多くのエピトープやタンパクを含んでおり、SARSのワクチン候補とされている。しかしながら、ヌクレオカプシドタンパクを含む不活化SARSワクチンはウイルス感染後マウスの肺に好酸球浸潤を示すことが報告されている。今回、Toll-like receptor (TLR) アゴニストがUV-Vワクチンの副反応を軽減するか半年齢のBALB/cマウスで調べた。UV-V、水酸化アルミニウム(Alum)添加UV-Vで免疫した半年齢マウスは、マウス馴化SARS-CoVの感染に対して一部防御を示し、組織学的に肺で肺胞傷害像は見られなかったが、血管周囲に広汎な好酸球浸潤が見られた。一方、リポポリサッカライド、Poly(I:C)、PolyUを含むTLRアゴニストを添加したUV-V(UV-V+TLR)で免疫したマウスでは、肺での好酸球浸潤が著しく減少した。そして肺のサイトカイン量の測定で好酸球誘導に関わるIL-4およびIL-13の値がUV-V免疫マウスよりも低いことが示された。加えて、マイクロアレイ解析でUV-V免疫マウスでは好酸球誘導に関わる遺伝子の発現が高くなっていたのに対し、UV-V+TLR免疫マウスではそれらは低く、むしろTLR3および4の下流に位置する遺伝子の発現が高くなっていることが分かった。これらの結果から、SARS-CoV感染により引き起こされる肺のワクチン誘発性好酸球浸潤はTLRアゴニストをアジュバントにすることにより、回避できると示唆された。
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