上皮間葉転換や間葉上皮転換を制御する転写因子、転写抑制因子の検索と導入について、5種類の転写因子を、レトロウイルスベクターを用いて上皮細胞へ導入した。このうち2種類の転写因子について恒常発現細胞を樹立した。これらの細胞は、麻疹ウイルス感染能が消失していることから、上皮間葉転換を起こしていることを確かめた。上皮間葉転換を起こした細胞に上皮受容体候補遺伝子群を発現させて、受容体の同定を試みたが、麻疹ウイルス感染効率を復活させる遺伝子は同定できなかった。また、上皮受容体候補遺伝子のshRNA発現細胞やドミナントネガティブ発現細胞を樹立したが、受容体同定には至らなかった。 また、極性上皮細胞を用いて、麻疹ウイルスHタンパク質のアミノ酸変化による抗原性の変化を解析した。Hタンパク質上には複数のantigenic siteがあるが、ウイルスの遺伝子型によって大きく変化しているantigenic siteと保存されているantigenic siteがあることが分かった。最も抗原性が高いantigenic site Iはよく保存されていたことから、麻疹ウイルスの単一血清型を決定する部分であると考えられた。一方、antigenic site I以外のエピトープは、一部の株で、すでに抗原性が大きく変化していると考えられた。これらの結果から、麻疹ウイルスは、今後も単一血清型でありつづけるであろうが、約半世紀前に分離された現在のワクチン株だけに依存していると、いずれ、ワクチン効果が低下する可能性があると考えられた。
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