C型肝炎ウイルス(HCV)の解析を通して、ウイルス感染依存に脂肪酸合成経路が活性化すること、及び脂肪酸合成酵素(FASN)の阻害剤がウイルス複製をも阻害することが我々の予備的実験で判明した。脂肪酸はグリセリンをエステル化して油脂(中性脂肪)と成るほか、脂質の構成成分であり、セカンド・メッセンジャーに変換されるだけでなく、エネルギー源としても代謝される。本研究では、脂肪酸合成がウイルス感染で果たす役割を解明すると共に、発現が誘導された脂肪酸合成酵素経路の因子とHCV感染後の病態との関係も解析する。 初年度の研究で我々は、FASN阻害剤オルリスタットでHCV複製を抑制した条件で、ウイルス複製抑制を解除する脂質をスクリーニングした結果、炭素数16の脂肪酸であるパルミチン酸を培地に加えた場合にウイルス複製が完全に回復することを発見した。炭素数14のミリスチン酸や炭素数18のステアリン酸の添加ではこの回復が観察されなかったことから、FASNが合成するパルミチン酸はHCV複製に必要な特異的な脂肪酸であると推定できる。我々はまた、FASN阻害剤が、HCV感染の動物モデルであるヒト肝臓キメラマウスでも抗HCV作用を有することも明らかにした。 我々は更に、HCV-Tgマウスの解析から、FASNの発現が肝臓での病態の進行と関連することも見出している。本年度はmiRNAと脂肪酸合成経路の相関の解析を進めると共に、ウイルス感染がそこに果たす役割を解明したい。
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