樹状細胞(dendritic cell:DC)は代表的なプロフェッショナル抗原提示細胞であり、外来抗原由来ペプチドをMHC class II(MHCII)上で提示することによりCD4+ T細胞の活性化を制御している。MHCIIによる抗原提示は免疫システムをダイナミックに制御するため、その発現誘導機構や新たなMHCII発現細胞の同定は注目されている。本研究で我々は、DCが活性化NK細胞と接触した際にDC細胞表面上のMHCIIタンパクがNK細胞に移行することを発見し、このMHCIIを獲得した新たなNK細胞集団をMHCII-dressed NK細胞と名付けた。これまでにNK細胞におけるMHCIIの発現の有無について議論の余地が残されていたが、MHCIIのI-A^b遺伝子欠損マウス由来NK細胞を用いた我々の解析から、NK細胞自身がMHCIIを合成するのではなく、DCからMHCIIを引き抜くことによってMHCII陽性となることを決定付けた。さらに卵白アルブミンペプチドおよびそれに反応するT細胞受容体を発現するOT-IIトランスジェニックマウスを用いた解析から、このMHCII-dressed NK細胞は、T細胞を活性化する上で必須なCD80、CD86といった補助刺激分子を発現しないため、T細胞を活性化する能力がなく、むしろT細胞にアナジーを誘導する可能性が示唆された。またこのNK細胞はDCと競合的に作用することによってDCの抗原提示能を抑制することも判明した。これらの結果は、MHCII-dressed NK細胞は免疫応答の収束に関わる制御性細胞として機能することを示唆する。 DCとT細胞が接触した際にその接触面に免疫シナプスが形成され、それを介して細胞間シグナルが伝わることが知られている。最近ではこの免疫シナプスを介して細胞間膜移動が起きることが明らかになりつつあり、その現象をtrogocytosisと呼ばれている。本研究で我々はNK-DC間のtrogocytosisによりMHCIIが細胞間移動することを見出したが、その分子メカニズムは不明であり、その解明が今後の課題である。
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