研究課題
今年度は主に、Unc93 homolog B1 (Unc93B1)にD34A変異(34番目のアスパラギン酸をアラニンに置換した変異)を持つノックインマウスの解析を行った(以下、D34Aマウス)。D34Aマウスは予想をはるかに超える多彩な表現型を持っており、これらの解析に労力の大半を使うことになったため、遺憾ながら新規関連分子の同定などには至っていない。しかし、結果として多大な知見が得られたため、今後の研究を膨らませることにつながると考えている。D34AマウスはTLR7高応答性かつTLR9低応答性の性質を持っており、肝炎、脾腫、血小板減少、糸球体腎炎、自己抗体産生、血球貪食症候群、骨髄増殖性疾患など多彩な表現型を持つ。これら表現型のうち、急性肝炎が主な原因でD34Aマウスは10週齢前後から死亡が確認され、半年以内に約半数、1年以内に約7割が死亡する。TLR7をノックアウトしたD34Aマウスは表現型が見られないことから、TLR7の異常な応答亢進が主因であると考えられる。D34Aマウスの表現型にはT細胞やB細胞が大きく関わっている。T細胞の大部分はメモリー細胞になり、Th1やTh17への分化も著しい。また、血清抗体価の上昇や自己抗体の産生からはB細胞の活性化が考えられる。さらに成熟B細胞欠損マウスなどを用いた実験から、B細胞がT細胞を活性化させ、その結果として脾腫や血小板減少が抑制されることを明らかにした。以上の結果は129バックグラウンドのマウスを用いて行ったものであるが、現在、C57BL/6をはじめとする複数の遺伝子背景に戻し交配が完了しており(N10以上)、すでにB6マウスとBalb/cマウスとの間で表現型に差があることを見いだしている。これはすなわち、D34A変異によって起こるTLR7/TLR9バランスの破綻は過剰な自然炎症として表現型の基盤を形成し、そこに何らかの調整遺伝子が働いて各種の表現型を発生させることを示唆している。この成果から、表現型を規定する遺伝子の同定を、連鎖解析によって試みている。
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Blood
巻: 117 ページ: 500-509
http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/kanseniden/index.html