T細胞の胸腺内分化後期(CD4+CD8+(DP)ステージ以降)におけるIL-7Rの役割を明確にするため、IL-7R-floxedマウスを作製し、CD4-Creトランスジェニックマウスと交配し(IL-7R cKOマウス)、解析を行った。IL-7R cKOマウスでは胸腺CD8T細胞、NKT細胞、制御性T細胞(Treg)の分化が障害されていた。また、胸腺内の成熟(HSA^<low>)CD4、CD8T細胞の数が減少していた。成熟CD4T細胞とCD8T細胞の減少は、増殖の低下が一因であり、さらにCD8T細胞では転写因子Runx3の発現が低下する結果、Perforin、GranzymeBなどの機能分子の発現も低下していることが分かった。Bcl-2トランスジェニックマウスとの交配により、CD8T細胞とTregの減少は野性型マウスと同程度まで回復させることができたが、NKT細胞の減少はBcl-2では回復させることができず、IL-7R cKOマウスにおけるNKT細胞の減少は、主に増殖の低下に起因することが明らかになった。また、IL-7R cKOマウスでは、胸腺B細胞が野性型の20倍以上に、樹状細胞とYδT細胞の数も1.5倍程度に増加していた。αβT細胞によるIL-7消費が胸腺内IL-7濃度を調整しており、B細胞の胸腺内での増殖を抑制している可能性が示唆された。次に、IL-7R発現レベルが胸腺細胞分化過程や活性化T細胞、メモリーT細胞で変化する分子メカニズムを解明するため、IL-7Rプロモーター上流3.6kbに存在するエンハンサーの欠損(CNS1 KO)マウスを作製した。CNS1 KOマウスでは、胸腺細胞上のIL-7R発現には影響がなく、末梢CD4、CD8両T細胞上のIL-7R発現低下と細胞数の減少をみとめた。Tregのみ、CNS1 KOマウスの胸腺で野性型マウスに比べてIL-7R発現が低下していた。さらに、IL-7Rプロモーター上流5.5kbに存在する種間で保存された領域の欠損(CNS2 KO)マウスも作製したところ、CNS2 KOマウスでは、胸腺と末梢T細胞上のIL-7R発現が野性型に比べて上昇していた。いずれのマウスも抗原刺激を行った際のIL-7Rの転写抑制には影響がなかった。以上の結果から、CNS1は末梢T細胞のIL-7R発現を正に、CNS2は胸腺と末梢T細胞のIL-7R発現を負に制御している領域である可能性が示唆された。
|