我々は、人為的に突然変異を誘導したマウス集団からT細胞に異常を持つ個体(ENU変異マウス)を発見し、責任遺伝子を同定した。この遺伝子XのT細胞における機能を解析し、T細胞恒常性の分子機構のより深い理解を得るために、今年度は以下のことを実施した。 ENU変異マウスとOT-I、OT-II、P14系統の各TCRトランスジェニック(Tg)マウスと交配し、目的のマウスを得た。ENU変異TCR Tgマウス系統を利用し、養子移入の実験系で抗原特異的T細胞応答を観察すると、野生型TCR Tgマウスと同様の結果を示した。一方で、ENU変異マウス自身を用いた場合には、野生型マウスよりも抗原特異的応答が減弱していたことから、ENU変異マウスではT細胞の活性化は正常であるが、応答すべきナイーブT細胞の数が減少していることが示唆された。このin vivoの結果と一致して、In vitroの実験系においても、ENU変異T細胞の活性化(増殖能、IL-2産生能)には野生型T細胞との変化はなかった。ENU変異T細胞の生存障害の分子機構として、ENU変異T細胞ではアポトーシス誘導分子Bimが増加していることを発見した。 遺伝子Xのコンディショナルノックアウトマウスを作製した。全身で遺伝子Xを欠損させた場合においても、マウスは正常に発育した。このノックアウトマウスのT細胞は、突然変異を導入したENU変異マウスと同様に、ナイーブT細胞の生存に障害が認められた。遺伝子Xのファミリー遺伝子について、遺伝子トラップマウスを導入した。遺伝子Xノックアウトマウスとは異なり、この遺伝子トラップマウスは、生後間もなく死亡するという表現型を示した。
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