好中球は、細菌などの感染源にいち早く集積し、貪食や活性酸素産生を介してこれらを除去する、いわば生体防御の最前線で機能する免疫細胞である。好中球が異物を貪食したり、飲作用(マクロピノサイトーシス)により取り込んだりするにあたり、その形態を大きく変化させる。この時の形態変化に、低分子量Gタンパク質であるRacあるいはCdc42を介したシグナルによる細胞骨格の再構成が重要な役割を果たしている。前年度までに、好中球の貪食およびマクロピノサイトーシスのいずれにおいても、免疫系特異的に発現するRac活性化因子であるDOCK2が不可欠なこと、また、貪食にあたってDOCK2が食胞周囲に集積することを見出している。本年度は、DOCK2と同じくCDMファミリーに属し、免疫系に特異的に発現するCdc42活性化因子であるDOCK11を欠損したマウスを作製し、このマウス由来の好中球を用いて貪食やマクロピノサイトーシスを検討した。その結果、DOCK11欠損好中球は、走化性因子の刺激に応答したCdc42の活性化は障害されているものの、DOCK2欠損好中球と異なり、貪食およびマクロピノサイトーシスはいずれも野生型好中球と差は認められず、正常であった。これらのことから、好中球の貪食やマクロピノサイトーシスにおける細胞骨格の再構成、ならびにこれに伴う細胞形態の変化は、主にDOCK2を介したRacのシグナルが機能していることが示唆された。
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