プレT細胞受容体(プレTCR)は、獲得免疫応答に重要な役割を担うT細胞の初期分化に必須の受容体であるが、リガンドの有無およびシグナル誘導機構は長年不明であった。我々は近年、プレTCRが荷電アミノ酸を介した自発的多量体形成により、リガンド非依存的にシグナルを誘導するというモデルを提唱した。本研究では当該モデルをin vivoで検証するため、荷電アミノ酸を変異させたノックインマウスの樹立および解析を進め、プレTCRのリガンド非依存的シグナル誘導の分子基盤、更にはこの機構が実際にTCRの多様性獲得に寄与しているか否かを明らかにすることを目的としている。本年度は、樹立した変異体pTαノックインマウス(D22A/R24A/R102A/R117A)の解析を中心として行った。このノックインマウスでは、野生型と比較して、胸腺細胞数の顕著な減少が見られ、若週齢では末梢のリンパ組織である脾臓においてもT細胞数の減少が見られた。また、プレTCRシグナルにより誘導される、下流シグナルタンパク質のリン酸化、細胞増殖、ダブルネガティブ(CD4^-CD^8-)からダブルポジティブ(CD4^+CD8^+)細胞への分化が全て減弱していることが明らかとなった。さらに、野生型と比較して細胞表面におけるプレTCRの発現が高かったことから、野生型では荷電アミノ酸を介した自発的多量体形成によりプレTCRが恒常的に細胞内に取り込まれているものと考えられる。以上の結果から、変異体pTαノックインマウス(D22A/R24A/R102A/R117A)では、T細胞初期分化が障害されていることが明らかとなり、未熟抗原受容体が電荷に依存してシグナルを伝達していることを、個体レベルで初めて証明した。
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