アトピー性皮膚炎(AD)患者の表皮で高発現を呈するサイトカイン TSLP は、間接的あるいは直接的に Th2細胞分化を促進しAD様皮膚病態を誘導するが、その機序には不明な点が多い。本研究は、TSLPの作用を受けたヘルパーT (Th)細胞(TSLP-Th2細胞)がAD表皮のバリア機能の破綻において果たす役割を明らかにすることを目的とした。表皮特異的TSLP過剰発現マウス由来あるいはin vitroで調整したTSLP-Th2細胞と、IL-4により分化誘導した Th2細胞(IL-4-Th2細胞)の性状の差異について、サイトカイン発現の網羅的なプロファイリングを行う予定であったが、マウスの交配能力および実験環境に一時的な問題が生じたため、両者の Th2細胞が共通に産生するサイトカインに焦点を絞ることで研究進行の円滑化を試みた。Th2細胞由来サイトカインが表皮と真皮を分かつ基底膜を溶かす蛋白質を産生するという知見を受けて、表皮と浸潤したTh細胞とのクロストークの可能性も考慮しつつ、 TSLPの産生調節および表皮ケラチノサイト(KC)のターンオーバーにおけるTh2細胞の影響を検討した。その結果、分化途上の表皮KCを構成する分子の発現が、IL-4あるいは IL-13存在下では転写因子STAT6および ERK/MAPKを介して抑制されることが明らかとなった。本現象はヒト表皮KC細胞株でも見られたことから、ヒト生体内でも同様の現象が起こりうると推測される。 IL-4あるいは IL-13によって惹起された表皮KC構成分子の発現異常が、その後の分化や皮膚のバリア機能にどのような影響を果たしているのかについては更なる検討が必要であり、引き続き研究を進めて行く予定である。また、今回対象外としたTSLP誘導性のサイトカインについても、皮膚バリア機能の破綻で果たす役割について今後検討していきたい。
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