成熟胸腺細胞の多数を占める亜集団ヘルパーおよびキラーT細胞への分化運命はCD4+CD8+胸腺前駆細胞でのThPOK転写因子の発現の有無によって決定される。すなわち、ThPOK転写因子が有意な発現が認められる細胞はヘルパーT細胞に、認められない細胞はキラーT細胞に分化する。本研究はThPOK転写因子の発現制御機構を明らかにし、CD4+CD8+胸腺前駆細胞の分化運命決定に必須な転写制御ネットワークを解明することを目指している。これまでに、Runx転写因子がマウスゲノム上のThPOK転写因子の発現抑制DNA配列、ThPOKサイレンサーに結合してThPOK転写因子の発現を抑制することが報告されているが、Runx転写因子はThPOK転写因子の発現の有無に関わらず、ThPOKサイレンサーに結合したことから、Runx転写因子だけではThPOK転写因子の発現制御機構を説明できない。これまでに、マウス個体でRunx転写因子の結合配列とは異なるThPOKサイレンサー内の新規領域がThPOKの発現抑制に機能することを明らかにした。この領域に結合する蛋白質の探索からThPOK転写因子の発現制御に機能する新規の転写因子をBcl11b転写因子を見出している。当該年度は、Bcl11b転写因子の機能欠損マウスを作製し、具体的な機能解析を行った。Bcl11b転写因子の機能欠損マウスでは、ThPOK転写因子の発現がキラーT細胞でも認められた。さらに、Bcl11b転写因子とRunx転写因子の多重変異マウスでは、キラーT細胞でのThPOK転写因子の脱抑制が増強されたことから、Bcl11b転写因子とRunx転写因子が協調してThPOKサイレンサーを介したThPOK発現を制御している事が明らかになった。
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