研究課題/領域番号 |
22790479
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
鈴木 敬一朗 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (90391995)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 濾胞性ヘルパーT細胞細胞 / IgA / PD-1 / パイエル板 |
研究概要 |
濾胞性ヘルパーT細胞(TFH)細胞の表面には抑制性分子であるPD-1が高発現する。PD-1欠損マウスの解析を行った所、小腸パイエル板における胚中心B細胞の数が野生型マウスに比較して有意に増加していた。腸管のIgA産生細胞は大多数がパイエル板に由来し、腸内細菌の制御に重要な役割を果たしている。そこで腸内細菌を培養法と16SrRNA遺伝子配列の解読による解析を行った所、PD-1欠損マウスでは一部の腸内細菌が異常に増殖していた。これは、腸管において機能的に異常なIgA産生細胞が誘導されている事を示唆していると考えられた。そこで分裂細胞をBrdUでラベルして生存細胞を追跡した所、PD-1欠損マウスでは、パイエル板の胚中心B細胞と腸管粘膜固有層におけるIgA産生形質細胞の生存・維持期間が有意に短縮している事が明らかとなった。 TFH細胞によって産生されるサイトカインのうち、IL-21は胚中心B細胞の増殖と生存に重要な役割を果たしている。PD-1欠損マウスのパイエル板におけるTFH細胞ではIL-21産生細胞が有意に減少、IFN-γ産生細胞が有意に増加するという異常なサイトカイン産生能を有する事が明らかになった。以上より、TFH細胞ではPD-1がサイトカイン産生を制御する事によって胚中心B細胞と抗体産生細胞の生存、維持を制御していると考えられた。全てのT細胞を欠損するCD3欠損マウスにPD-1欠損マウスのTFH細胞を移入した所、腸管粘膜固有層におけるIgA産生細胞数が有意に低下していた。以上の知見は、PD-1の影響によってTFH細胞から産生されるサイトカインなどに影響を与える事によって胚中心B細胞の維持が制御されている事を示しており、抗体産生細胞の制御メカニズムにおける重要な知見となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、次の項目について明らかにする事であった。1. TFH細胞が胚中心B細胞の維持に影響を及ぼしているのか。2. もしそうであるならば、胚中心B細胞の維持反応のうちどの段階を主に制御しているのか。3. それを制御する主要な分子機構はどのようなものであるか。これら目的に照らして、現在までに明らかになっている事は以下の通りである。1. TFH細胞が胚中心B細胞の維持に重要な役割を果たしている。 2. 胚中心B細胞の維持反応のうち、アポトーシスに関連する段階を制御している。 3. TFH細胞に高発現しているPD-1の働きによって、IL-21やIFN-γなどのサイトカイン産生が制御されており、B細胞の維持反応に重大な影響を与えている。以上により、当初に目的としていた課題に関しては順調に達成されている考えられる。 また、当初は腸管におけるTFH細胞の特殊性について取り組む事は困難であると考えていたが、腸管分泌IgA抗体のレパトア形成に対する関与という形で示されている。PD-1欠損マウスの腸管IgAではV-D-Jレパトアと抗原認識領域の高頻度点突然変異の形成に異常が生じ、その結果として腸内細菌が異常な増殖を示すという事が明らかとなった。従って、TFH細胞は腸管IgA産生の量と質の両方に影響を与えており、B細胞の維持のみならず抗体産生細胞の性質にも重要な影響を与えている事が示されている。今後は、これまでの研究によって得られた知見をどのように病態制御機構の解明に適応して行けるかについて検討を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究によって、TFH細胞による胚中心B細胞の維持と抗体産生の制御に関する生理的な機構がかなりの程度明らかとなってきた。そこで、今後の研究では腸管における正常な抗体産生が病態制御にどのように関わっているのかについて理解する為の研究を推進して行きたい。 腸管内腔には、腸内細菌や食餌成分など多くの刺激因子が存在している。これらの腸内刺激因子の影響は腸管免疫系にとどまる事なく全身の免疫系にも拡がっており、実験的脳脊髄炎や慢性関節リウマチなどの動物モデルにも腸内細菌による刺激が大きく関わる事が報告されている。また、腸内細菌を除去すると血清IgEの産生が亢進して喘息などのアレルギー疾患が増悪する事も報告されている。腸管免疫組織内で誘導されるIgA抗体がTFH細胞の働きによって腸内細菌への結合が促進されている事が現在までの研究によって明らかとなってきた。上記した全身の免疫組織の病態制御において、正常な機能をもったIgA抗体が必要であるのかについては明らかではない。今後の研究において、腸管のIgA抗体がどのように全身の免疫疾患の制御に関わっているのかについて検討を進める事によって、これまでに得られた知見を医学応用に結びつける道筋を見出して行ける様に研究を進める予定である。
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