本研究では、患者や市民が疾病や治療のリスクに関する情報を受け取り読み取ること、医療者に対して適切に情報を発信し伝えること、すなわちリスク・コミュニケーションに焦点をあてて、患者や市民の能力やスキルを高める教育プログラムを開発することを目的とした。1年目は、教育プログラムの検討を行なった。まず、先行研究および、主として慢性疾患患者用に作成されている患者教育用プログラムのコミュニケーションに関連する部分を検討し、また、医師・医学生向けの医療コミュニケーション教材等についても精査し、「がん検診要精密検査対象者向けのリスク・コミュニケーション教育プログラム」のたたき台を作成した。2年目に、専門家パネルを組織し、現状におけるリスク(確率)のエビデンスや、それを市民・患者に伝える際の手段・内容について検討を繰り返した。専門家に対する調査では、従来のがん検診のコミュニケーションについて、利益が強調されるあまりリスクについてほとんど情報が提供されていないことがわかった。更に、内容の過不足、わかりやすさ、専門用語の利用の可否、リスク情報の提供にあり方(強調するリスクと安全性バランスなど)、等について市民を対象にした評価等を行いプログラムの修正を行った。プログラムはWeb版と冊子版の2つのものを開発し、実際のがん検診におけるリスク・コミュニケーション場面で利用可能であることを意図して作成した。また、リスク(確率)の伝え方や、伝える際の方法論については、がん検診以外の様々な場面で利用可能である。
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