背景:高度先進医療の発展に伴い、検査偏重性の強い医療現場を主な学習の場とする医学生にとって、身体診察を学ぶことは近年、困難になってきている。その学習を促すため、2005年から共用試験OSCE(客観的臨床能力試験)が始まったが、同試験においては身体診察の手技のみを評価して、その診断的意義があまり問われていないという問題があった。その問題を解決するために演者らはこれまで「臨床診断推論を組み込んだ身体診察法(Hypothesis Driven Physical Examination、以下HDPE)」の教育モデルを開発してきた。この教育モデルでは、学生は簡単な病歴とあらかじめ準備した3つの鑑別疾患を提示され、鑑別を行うことのできる身体所見、そのために必要な診察手技について検討し、その後、ロールプレイによって実際に身体診察を行い、得られた所見をもとに診断をグループ討議で考える。今回はこのHDPEの教育モデルを基盤に、実技試験をパイロット的に開発した。 方法:対象は医学部の5年生6名および6年生6名、ステーション数は3(実際の受験は2ステーション)、1ステーションあたりの受験者数は6名、試験時間は15分、用いたシナリオの数は3種類である。HDPEの実技試験の評価は、教育モデルで開発した予想所見シート(当日提示)を用いた。 結果:試験結果はシナリオ1(腹痛症例)では手技が27.75点/50点、所見が22.24点/50点、シナリオ2(めまい症例)では手技が 33.88/50点、所見が23.12/50点、シナリオ3(呼吸困難症例)では手技が19.27/50点、所見が17.94/50点であった。 考察:パイロットレベルではあるが、臨床診断推論と身体診察を同時にかつ系統的に評価することは可能であると考えられた。妥当性・信頼性の検討はまだ十分に行えておらず、今後の課題となる。
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