1.平成22年7月、「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」及び「特定胚の取扱いに関する指針」が制定されてから最初となる「動物性集合胚」作成研究の届出が文部科学省になされ、9月から研究が開始した。これは、移植用臓器の作成を最終的な目標として、ヒトiPS細胞をブタ、マウス等の胚に移植してキメラ胚を作成するというものである。これを契機に現行の法律及び指針に基づく動物性集合胚研究の規制について見直しの必要性が認識され始めている。 そこで、平成22年度は、複雑化している人と動物のキメラに関する概念整理からはじめ、日本におけるこれまでの議論、現在の規制とその問題点、そして、人と動物のキメラ胚研究の規制のあり方について再議論を行う上での検討課題を考察した。なお、その際、人と動物のキメラ胚研究を一定の条件のもと法的に認めているイギリスにおける規制の状況や議論も検討した。 その結果、現在の規制には、動物性集合胚の取扱い期間、動物胎内への移植の禁止、作成目的、「動物性集合胚」等の用語に問題があることを明らかにした。また、今後は、人と動物のキメラ胚・キメラ個体の作成について、人のどのような特性をもつ人と動物のキメラ胚を作成してよいか、また、このような個体は「人」と「動物」のどちらなのか、といった点についても検討しなければならないことを海外における議論から明らかにした。これらの検討は、人と動物のキメラ胚研究の現状、そして、予想される今後の研究展開についての情報が科学者と非科学者との間で共有されなければ成り立たない。それゆえ、科学者の役割、そして、コミュニケーションスキルが極めて重要なものとなることもわかった。(日本生命倫理学会誌『生命倫理』に投稿済み) 2.ヒトiPS細胞研究拠点の京都大学及び慶應義塾大学の研究者とのネットワークを構築し、インフォームド・コンセントに関して協議を重ねた。
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