研究課題/領域番号 |
22790491
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
神里 彩子 東京大学, 医科学研究所, 特任助教 (70554509)
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キーワード | 再生医学 / iPS細胞 / 異種キメラ / 動物性集合胚 / 倫理的・法的・社会的問題(ELSI) |
研究概要 |
本研究課題では「iPS細胞研究の内容面に関するELSI研究」と「iPS細胞研究の手続き面に関するELSI研究」という2つの研究目的を掲げている。それぞれの研究成果は次の通りである。 〈研究目的(1)-iPS細胞研究の内容面に関するELSI研究〉 再生医療実現化に向けたヒト-動物キメラ胚の作成・移植に関する研究 現在、特定胚指針により、動物性集合胚の作成は認められているが、その動物やヒトの胎内への移植は禁止されている。動物性集合胚を動物へ移植する研究を行うためには、特定胚指針の改正が必要となる。そこで、ヒトの遺伝物質を持つ動物の作成・利用研究に関して、文献調査や意識調査を行った上で一定の方針を示したイギリス医学アカデミーの報告書等を参考にしつつ、指針改正を可否や条件等について検討した。この成果については、総合科学技術会議生命倫理懇談会より報告の機会をいただき、2012年1月17日「ヒトと動物のキメラをめぐる倫理的規制の状況と今後の課題」というタイトルで発表した。また、ヒト-動物キメラはヒトの細胞をもつ動物であることから、「種の境界」についての海外の意識調査の論文や研究報告書等を調査し、このようなテーマで市民を対象とした意識調査を行う場合の方法や調査項目についても検討した。 〈研究目的(2)-iPS細胞研究の手続き面に関するELSI研究> iPS細胞研究に関する研究対象者向けの資料や説明・同意文書案の作成 ヒトiPS細胞の樹立・使用研究に関する説明・同意文書の作成を行った。作成にあたっては、ネットワーク関係が構築された拠点担当者との意見交換をして研究者のニーズを把握し、他方で研究対象者の研究参加の任意性の確保等についても配慮した。また、ヒトiPS細胞のバンク運用についても検討し、運用案を作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
iPS細胞を動物の受精卵に入れて作成するヒト-動物キメラ胚の研究が東京大学で行われており、研究者からは、このヒト-動物キメラ胚を動物の胎内に移植することが今後の研究上重要であるという声が聞かれる。先述のとおり、ヒト-動物キメラ胚を動物の胎内に移植できるようにするためには特定胚指針の改正が必要になるが、そめ具体的な検討課題を、政策決定の場である総合科学技術会議生命倫理懇談会で報告できたことは、本研究が評価されたものと考えることができる。
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今後の研究の推進方策 |
〈研究目的(1)-iPS細胞研究の内容面に関するELSI研究〉再生医療実現化に向けたヒト-動物キメラ胚の作成・移植に関する研究 ヒト-動物キメラ胚とは、ヒトのiPS細胞等を動物の受精卵に入れて作成するものであることからヒトと動物の「種の境界」が曖昧になる。そのため、この検討を更に進めるためには、「種の境界」が曖昧になるという点で共通する「異種移植」に関する考察が有意義であり、必要であることがわかった。それゆえ、「異種移植」に関する文献調査も行うこととする。「種の境界」に関する理解は人間観や動物観と相互作用を有すると考えられる。興味深い意見が得られる可能性が高いため、可能であれば海外の研究者にインタビュー調査を行いたいと考えている。 〈研究目的(2)-iPS細胞研究の手続き面に関するELSI研究〉iPS細胞研究に関する研究対象者向けの資料や説明・同意文書案の作成 臨床試験を踏まえたiPS細胞研究に関する説明・同意文書の作成が必要になってくる。国内外の研究対象者向けの資料や説明・同意文書案を収集し、実際にどのような説明が研究対象者に行われているのかを把握する。その上で、研究対象者に説明すべきiPS細胞研究固有の内容を同定する。同様に、iPS細胞バンクに関する国内外の研究対象者向けの資料や説明・同意文書案も集め、どのようなことを、どのように研究対象者に説明するのが適切かを検討する。
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