研究課題/領域番号 |
22790491
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
神里 彩子 東京大学, 医科学研究所, 特任助教 (70554509)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 再生医療 / iPS細胞 / ELSI |
研究概要 |
本研究課題では、ヒトiPS細胞研究をめぐるELSI(倫理的・法的・社会的問題)は、iPS細胞研究の「内容面」と「手続き面」という2つのレベルから検討することが必要と考えている。そのため、<研究目的①‐iPS細胞研究の内容面に関するELSI研究>と<研究目的②‐iPS細胞研究の手続き面に関するELSI研究>という2つの研究目的を掲げてこれまで研究を行ってきた。平成24年度の研究実績は下記の通りである。 <研究目的①‐iPS細胞研究の内容面に関するELSI研究> ヒトのiPS細胞等を動物の受精卵に入れて作成する「動物性集合胚」は、ヒトと動物のキメラを作出するものである。そのため、ヒトと動物の「種の境界」が曖昧になることにから、その倫理的・法的・社会的妥当性が問題となる。そこで、「種の境界」が曖昧になるという点で共通する「異種移植」に関してイギリスの報告書等の文献調査を行った。また、ヒトとの「境界」という点で共通する「アンドロイド」に関する文献調査も行った。 <研究目的②‐iPS細胞研究の手続き面に関するELSI研究> ヒトPS細胞研究を行っている研究者に対し、研究支援体制の状況、また、研究推進に向けて研究倫理の面からどのような支援があることが望ましいか等についてインタビューを行った。また、iPS細胞バンクに関しても研究者にその運用のあり方等についてインタビューを行った。その他、臨床用にiPS細胞を作成する場合、体細胞提供者に対してどのような説明を行うのが妥当か、また、感染症検査の結果の開示のあり方や開示する場合のスキーム等について具体的に検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、ヒトiPS細胞研究の現場にフィードバックできる研究をするよう心がけている。この点、iPS細胞研究者とのネットワークも形成されつつあり、研究者等から実際に浮かび上がったELSIに関する課題や問題を聞くことができ、それを本研究において考察し、研究者へのフィードバックをすることができている。 また、「動物性集合胚」に関連した議論が内閣府総合科学技術会議生命倫理調査会で行われているが、その事務局より拙稿「ヒトと動物のキメラを作成する研究はどこまで認められるか?―再議論に向けた検討課題の提示-」の提出が本年求められた。このことから、本研究が政策立案の一助となっていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
<研究目的①‐iPS細胞研究の内容面に関するELSI研究> iPS細胞研究のELSIに関しては、ヒト-動物キメラの作製のほかに、ヒトiPS細胞を用いた生殖細胞の作成についてのELSIが指摘されている。しかし、ヒトiPS細胞から作られた生殖細胞を用いて受精卵を作成することの倫理的な問題の本質はどこにあるのか、また、受精卵を作成することは一律禁止されるべきないのか、どのような場合には作成が認めらる余地があると考えられるのか、作成された受精卵は自然生殖による受精卵とは道徳的価値において異なるかなど、ELSIの内実についての研究は十分ではない。そこで、平成25年度はヒトiPS細胞を用いて生殖細胞を作成することのELSIについて検討したい。研究方法としては国内外の文献調査を中心に行うが、必要に応じてインタビュー調査等も取り入れる。 <研究目的②‐iPS細胞研究の手続き面に関するELSI研究> これまではiPS細胞を樹立するための体細胞提供者、すなわちドナーに用いられる資料や説明・同意文書案を収集して検討を行ってきた。しかし、加齢黄斑変性の臨床試験の開始が予定されていることから、iPS細胞等の投与・移植を受ける患者、すなわちレシピエントに用いられる資料や説明・同意文書のあり方を検討したい。方法としては、海外でES細胞の臨床試験で用いられた説明・同意文書や、インフォームドコンセントのあり方に関する論文等を収集し、iPS細胞の投与・移植を受ける対象者に説明する内容や方法等を考察することとする。
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