研究課題/領域番号 |
22790493
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
山田 千積 東海大学, 医学部, 講師 (40464226)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 糖尿病 / ナラティヴ / セルフマネジメント / 心理医療支援 / コミュニケーション・モデル |
研究概要 |
糖尿病を含む生活習慣病の発症や増悪には、食事や運動など個人の生活習慣が密接に関連しており、その治療においては、医師による「指導」よりもむしろ、患者自身の自由意志で選択した行動変容の方が維持されやすく有効であることが知られている。「当事者」である患者の視点やナラティヴ(語り)を取り入れ、医師も患者も支援できる、当事者の経験を生かした医師・患者教育のプログラムを具体的に提案することは新しい試みである。 「ナラティヴ・アプローチ」は、語りの相互行為による生成プロセスや文脈を重視し、当事者からみた物語(経験の組織化の仕方や意味づけ方)を重視する。この場合、従来の医師と患者との対面での会話(二項関係)よりも、医師と患者のあいだに媒介項(媒介者・メディエータ、媒介物・ミーディアム)を配置した方が(三項関係)、ナラティヴ生成が行われやすく、その媒介項はヴィジュアル的なものがより効果的である。これまでは、糖尿病治療に役立てられる情報としては、1日数回の自己血糖測定値や診察時のHbA1c値といった、「点」のデータしか得られなかった。しかし、最近の機器の進歩により、持続血糖モニタリングにより血糖変動がヴィジュアル的にグラフ化された「線」として得られ、ライフコーダと呼ばれる生活習慣記録機により1日の身体活動パターンや消費カロリーの日別推移グラフが得られるようになっている。これらのヴィジュアル・データは、医師が糖尿病の薬物治療に役立てることには使用されているが、それを媒介として語りを共同生成し、糖尿病患者教育に役立てた研究はこれまでにない。 そこで、研究計画「ナラティヴ・アプローチを用いた糖尿病セルフマネジメントの支援」を立案し、臨床研究審査を経て、現在研究を遂行している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
東海大学東京病院において、医師(研究代表者:山田千積)、看護師、栄養士、薬剤師で構成される「糖尿病チーム」を組織し、平成24年度中にミーティングを4回行った(平成24年11月14日、12月3日、平成25年1月29日、3月15日)。また、「糖尿病ナラティヴ インタビューガイド」を作成して、インタビュー導入時のポイント、インタビューの進め方、インタビュー中の注意事項などにつき確認した。 研究計画「ナラティヴ・アプローチを用いた糖尿病セルフマネジメントの支援」について臨床研究審査の申請を行い、平成25年1月に東海大学より承認された。臨床研究実施期間は2014年3月31日まで、対象は東海大学医学部付属東京病院に入院した糖尿病患者、目標症例数は15例を予定している。 現在、研究計画に基づいて研究を遂行している。
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今後の研究の推進方策 |
日常診療の範囲内で行われている糖尿病関連検査(糖尿病型、罹病歴、空腹時血糖やHbA1cなどの採血データ、自己血糖測定による入院中の血糖値、持続血糖モニタリングによる連続3日間の血糖値、蓄尿中Cペプチド、グルカゴン負荷血中Cペプチド、糖尿病性合併症の有無・程度)や生活習慣調査(ライフコーダによる1日の歩数や消費カロリーなど身体活動パターンの評価や栄養士による食事調査)の結果を媒介として、治療者(医師、看護師、薬剤師、栄養士)が話し合う。 インタビュー調査は、インタビューガイドに従って行う。所要時間は約30分で、ICレコーダーに記録して質的データ(言語記録)を作成し、それを解析する。 本研究は、ヴィジュアル的に示される糖尿病関連検査や生活習慣調査の結果を媒介としてナラティヴを共同生成し、糖尿病患者支援に役立てることを目的とする。ナラティヴ・データは質的データであり、個人のデータを解析することにより、その患者個人に適した、いわゆるテーラーメードの患者支援に役立つ。 さらに、個々の質的データからより一般的に適用可能なモデルを抽出し、理論的・方法論的検討を加えて、より質の高い心理医療支援のコミュニケーション・モデルを提案することを目指す。
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