研究課題
本研究では、循環血から脳内への骨髄間葉系幹細胞(MSC)の高効率送達を最終目標に、MSCの血液脳関門(BBB)通過機構の解明を目指した。昨年度は、MSCのBBB通過機構を解析するためのインビトロ評価系を構築して、MSCが傍細胞経路で脳微小血管内皮細胞(BMEC)層を通過することを示した。今年度は、MSCのBMEC層通過へのMAPキナーゼ(MAPK)の関与を検討した。まずは、細胞培養インサートの膜上にBMECを培養し、upperチャンバーにMSCを添加するという昨年度構築した評価系を用い、MSCのBMEC層通過へのMAPK阻害薬の作用を調べた。MEK阻害薬はMSCのBMEC層通過を増加させた。一方で、p38MAPK阻害薬存在下ではBMEC層を通過するMSC数は減少した。次に、BMECからなるインビトロBBBモデルを用い、そのバリア機能へのMAPK阻害薬の効果を経内皮電気抵抗値(TEER)を指標として検討した。その結果、MEK阻害薬はTEERを減少させ、逆にp38MAPK阻害薬はTEERを上昇させた。すなわち、MEK阻害薬はバリア機能を低下させ、p38MAPK阻害薬はバリア機能を増強した。続いて、MSCのみを用いてMSCの遊走能に対するMAPK阻害薬の効果を検討したところ、両阻害薬ともにMSCの遊走を抑制した。以上の結果から、少なくともMEK阻害薬に関しては、BMEC存在下ではMSCへの直接的作用よりもBMECへの作用の寄与が大きく、BEMC層のバリア機能を低下させた結果としてMSCのBMEC層通過を増加させた可能性が示唆された。さらなる詳細な検討が必要であるものの、本研究成果は、幹細胞や白血球などの脳内浸潤機構をインビトロ実験系で評価する際には、遊走細胞のみを用いた遊走実験だけでなく、BMEC存在下での遊走能の評価が重要であることを示唆している。
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Neurosci. Lett
巻: 502 ページ: 41-45
DOI:10.1016/j.neulet.2011.07.021