骨代謝疾患の創薬概念として、骨吸収抑制および骨形成促進が想定されるが、特に後者に関しては明確な分子基盤に基づいた創薬は少ない。本申請研究においては、まず骨形成促進の分子機構の解明を行い、効率的な創薬標的の探索、更には候補化合物のスクリーニングを目指す。本年度は、骨形成分子機構の一端の解明を試みた。骨形成を担う骨芽細胞が、造骨作用を発揮する際には、細胞表面上の受容体Frizzledおよび共受容体LDL receptor related protein (LRP)5/6に、リガンド分子Wntが結合し、β-cateninシグナル伝達経路が活性化することが明らかになっていた。このことから、受容体FrizzledおよびLRP5/6は、骨芽細胞表面に発現することが必要であることが想定され、まず基底状態にけるこれら分子の細胞内局在に注目した。非骨芽細胞系細胞のHeLa細胞やNIH3T3細胞においては、いずれの受容体も細胞表面に発現するが、骨芽細胞系細胞のMC3T3-E1細胞およびST2細胞においては、Frizzledが細胞表面に局在する一方でLRP5/6は主としてリソソームに局在していることが、各種オルガネラマーカーとの共染色および密度勾配遠心を用いたオルガネラ分画により観察された。これらのことから、Frizzledが細胞表面に常在型の受容体で、LRP5/6が刺激に伴い細胞表面へ移行し、機能発揮するというシステムを想定した。刺激剤として、β-cateninシグナルを活性化させる代表的リガンド分子Wnt3aを用いたところ、刺激後1時間でLRP6の細胞表面上発現量が上昇した。このようなLRP5/6の細胞表面への刺激依存的なトランスロケーションは骨芽細胞特異的な現象であると考えられ、この機構が造骨作用発揮に重要であると予測される。今後、複数種あるリガンド分子Wntの種類によるLRP5/6の細胞内挙動の違い、下流のシグナル伝達様式の違いを解明し、造骨作用に中心的な役割を果たす分子群をより詳細に同定することを試みる。
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