研究概要 |
骨代謝疾患の創薬概念として、骨吸収抑制および骨形成促進が想定されるが、特に後者に関しては明確な分子基盤に基づいた創薬は少ない。本申請研究においては、特にWntシグナル伝達経路に着目して、骨形成を制御する分子機構の解明を試みた。Wntはファミリー分子が19種類、Fzdは10種類からそれぞれ構成されており、いずれのアイソフォーム同士が相互作用するか?と言った基本的な情報も含めて不明な点が多い。平成23年度は骨芽細胞に発現するWnt/Fzdを網羅的に解析し、Wntファミリーは10種類、Fzdファミリーは9種類のアイソフォームが発現していることが確認された。そこでこれらすべての分子に関して、アデノウィルスを用いた遺伝子導入系を構築した。さらに、Fzdの共受容体として働くLRP5/6およびLRPの抑制分子であるDKK1に関しても、同様にアデノウィルスによる遺伝子導入系を構築した。次いでこれらアデノウィルスを全ての組み合わせで骨芽細胞株に感染させ、骨芽細胞分化マーカーであるALPの発現に与える影響を網羅的に測定した。さらに、Wntシグナルの細胞内伝達経路としてこれまでに知られている古典経路(b-catenin経路)および非古典経路(JNK,NFAT,CRE)の活性化をルシフェラーゼ・アッセイを用いて評価した。これら一連の検討の結果、骨芽細胞の活性化には従来指摘されてきた通り、b-catenin経路の活性化が中心的に寄与する一方で、JNK経路の活性化はむしろ骨芽細胞の活性化を抑制することが明らかとなった。さらに古典経路と非古典経路の活性化バランスは、DKK1の発現量によって中心的に制御されており、抗DKK1抗体などによってDKK1の機能を抑制した場合、b-catenin経路の活性化とJNK経路の抑制の双方が生じ、非常に効率的に骨芽細胞の活性化に至ると考えられた。
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