米国男性において、前立腺癌は最も発現頻度の高い癌であり、近年日本においても増加傾向にある。GnRHアナログにより男性ホルモンの働きを阻害する"ホルモン療法"が前立腺癌に対する第一選択である。一般的には、治療開始後2~3年以上経過すると癌はホルモン治療抵抗性となって再び増大するが、ホルモン治療抵抗性を宗すまでの期間が患者により異なることが知られている。本研究は、患者の遺伝子情報からホルモン治療の有効期間の個人差を予測することで、各患者に適した治療戦略(ホルモン療法、手術療法、放射線療法など)が提案可能になるという、臨床的意義を有する。 本研究期間では、前立腺癌の発症に関する遺伝子、アンドロゲンシグナルに関わる遺伝子など、ホルモン治療抵抗性に関わる可能性のある21遺伝子48遺伝子多型から、ホルモン治療の有効性の個人差に関連する遺伝子多型を統計解析により探索した。観察期間の中央値が43か月であったため、43か月未満にホルモン治療抵抗性を獲得した患者を高リスク群、43か月以降にホルモン治療抵抗性を獲得した患者を低リスク群とした。その結果、テストステロン合成の律速段階にある酵素をコードする遺伝子CYP17A1上に存在する4つの遺伝子多型rs743572 GG群(p=0.01)、rs6162AA群(p=0.01)、rs6163AA群(p=0.01)、rs1004467CC群(p=0.03)で、高リスク群の割合が低かった。また、アンチアンドロゲン除去症候群の有無における個人差については、前立腺癌細胞で強発現する転写因子NCOA2及び細胞増殖のシグナル伝達に関与するEGFR上の遺伝子多型が関連していた。
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