乳癌の進展、再発、転移などの腫瘍の動態は癌幹細胞の性質に依存すると考えられる。本研究では癌幹細胞のサブタイプを明らかにし、病態と比較検討することで、予後予測や転移予測、または治療効果判定に役立つマーカーを探索することを目的とする。平成22年度は患者乳癌組織からの乳癌幹細胞の培養を試み、癌幹細胞が濃縮されているとされるスフェロイド形成のための至適培養条件を検討した。患者乳癌組織は細切してコラゲナーゼ処理により細胞を分散し、メッシュを通して洗浄後、低接着プレートに無血清培地を用いて培養した。分離した乳癌細胞は3日~7日間で低接着プレート培養上にスフェロイドを形成した。スフェロイドが維持される期間は症例ごとに異なり、長期培養可能例では1か月程度維持が可能であった。しかし、ほとんどの症例において長期培養が困難であった。また、スフェロイドの大きさ、形態は症例により異なり、一部では管腔構造を呈する症例も観察された。さらにスフェロイド形成能をより定量的に評価するため、スフェロイド数のカウントを試みた。細胞同士の凝集を抑えるために、メチルセルロース添加培地を用いて播種し、7日目に一定細胞数から形成された50μm以上のスフェロイド数をカウントすることでスフェロイド形成能の定量化を可能とした。今後、本研究により確立された培養条件を用い、各症例の病態とスフェロイドサブタイプあるいはスフェロイド形成能との関連性について検討を加えたい。そのための準備として、少数のスフェロイドからのRNA抽出、遺伝子の定量RT-PCRは困難かと思われたが、いくつかの幹細胞性マーカーの解析が可能なことを確認した。
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