本研究においては、生体肝移植における移植肝機能不良、特に過小グラフトに起因するSmall-for-size syndromeの病態メカニズムと肝再生不良機序を解析し、臨床応用可能な機能予後予測システムの確立を目指している。 平成22年度末までに、計262症例の生体肝移植を施行し、臨床データベース構築、サンプル保存中である。成人生体肝移植症例の移植肝血行動態評価、肝再生評価、並びに移植後肝機能と短期成績についての中間解析を行った。短期予後不良因子は、過小グラフト、ドナー年齢53歳以上、患者重症度(MELD 23以上)であった。移植肝再生シグナルの評価では、高齢Donorにおける移植肝再生シグナルの発現低下を認めた。Small-for-size syndromeは、肝移植後の短期死亡に有意に関連しており、同症候群の発生には過小グラフトのみならず、移植後血行動態とドナー年齢、レシピエントの重症度が相関していた。 過小グラフト症例に対する予防的治療として、脾動脈経由の門脈減圧術を導入しており、H22年度以前の蓄積データと併せ評価を行った。過小グラフトに対する積極的門脈減圧によって、移植後急性期における肝酵素上昇が抑制され、炎症性サイトカインIL-6/TNF-alphaの低下傾向を認めた。肝移植後の肝再生・定量的機能予後評価においては、MD-CT volumetryにて良好な肝再生を認め、GSAシンチグラムについてもグラフト再生に相関する機能回復傾向を認めた。臨床的には、過小グラフト肝の機能予後改善から、周術期の血液製剤使用の減量、ICU滞在日数の短縮化が得られた。 生体肝移植の移植後予後向上には、症例重症度に応じたドナーやグラフトの選別が重要であり、Small-for-size syndromeの病態メカニズムの更なる解析と、病態メカニズムに応じた選別基準の醸成に向けて今後解析を継続していく予定である。
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