上皮性卵巣癌組織型の中で、明細胞腺癌(CCA)は化学療法に対する抵抗性が高く、予後不良例が多い。CCAでは、代表的腫瘍マーカーであるCA125が低値な症例も多いことから、CCAを高い精度で検出できる血清マーカーの開発が必要とされている。我々は、プロテオミクス手法を用いてCCA由来の細胞株が産生する分泌タンパク質を解析し、新しい卵巣癌診断マーカーを発掘することを目指した。 まず、CCA、non-CCA合計8種の卵巣癌細胞株の培養上清に含まれるタンパク質をLC-MS/MSにより比較解析し、CCA細胞株群からは共通して同定されるが、non-CCA細胞株群からは検出されない891種のタンパク質群に注目した。さらに、各組織における発現プロファイルや遺伝子オントロジーに基づいて、組織特異性の高い細胞外分泌タンパク質に焦点を当てた。この解析により、組織因子経路阻害因子2(TFPI2)が新規卵巣癌マーカー候補タンパク質となりうる可能性が浮かびあがった。TFPI2は、遺伝子レベルにおいてはCCA細胞株およびCCA患者組織にて特徴的に発現していることがリアルタイムPCR法で示された。さらに抗TFPI2マウスモノクローナル抗体を作製してイムノアッセイ系を構築し、患者血清中における本タンパク質の濃度を測定したところ、健常群および子宮内膜症群と比べてCCA群では有意に高い値を示し、またCA125陰性検体においても13例中11例が高値であった。これは、今回見いだしたマーカータンパク質が、CA125では判別が難しいCCA患者検体をも高確率で陽性と判別できる可能性を示唆する結果である。
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