本研究では、蛍光標識した抗体を直接細胞内の標的タンパク質に結合させることで、あるがままの挙動を観測することを目的としている。具体的には、(1)標的タンパク質の機能を損なわない蛍光標識抗体を調製し、(2)マイクロインジェクションで細胞内に導入し、(3)蛍光相関分光法(FCS)で標識分子の動態を観測する。本観測法を確立し、細胞内のタンパク質の翻訳後修飾や異常タンパク質の動態を評価することで、がんや遺伝子疾患など病的細胞の細胞内分子診断に応用する。平成22年度は、本研究の実現性を実証するため、申請者の所属する研究室で実績のあるPKCβを対象とし、培養細胞による研究モデルの構築を目指した。以下の項目を達成し、本研究の基盤を完成させた。(1)抗PKCβモノクローナル抗体について、蛍光標識化条件を選定した。蛍光標識効率および抗体機能の評価にはFCSを利用した。様々な標識法を検討した結果、Fc領域を標的とする蛍光標識化Fab断片を用いる方法により、抗体機能を保持した蛍光標識化抗体を簡便に調製することができた。(2)細胞内へのマイクロインジェクションの習熟を進めた。蛍光タンパク質(GFP)をサンプルとして細胞内に注入しFCSによる計測を行うことで、これらの操作に適した細胞培養条件、サンプル調製条件、観察条件を決定した。(3)細胞内でのPKCβの分子動態(拡散係数)をFCSで計測した。研究モデルとして、PKCβ-GFP遺伝子の安定発現株を調製した(購入物品の倒立型ルーチン顕微鏡を使用)。ホルボールエステルを用いた細胞内局在変化試験を行い、機能が維持されていることを確認した。また、基礎データとなる細胞質および細胞膜上での拡散係数を取得した。
|