本研究では、蛍光標識した抗体を直接細胞内の標的タンパク質に結合させることで、あるがままの挙動を観測することを目的としている。具体的には、(1)標的タンパク質の機能を損なわない蛍光標識抗体を調製し、(2)マイクロインジェクションで細胞内に導入し、(3)蛍光相関分光法(FCS)で標識分子の動態を観測する。本観測法を確立し、細胞内のタンパク質の翻訳後修飾や異常タンパク質の動態を評価することで、がんや遺伝子疾患など病的細胞の細胞内分子診断に応用する。平成23年度は、本研究の実現性を実証するため、培養細胞による研究モデルの構築を目指し、以下の項目を実施した。1)HeLa細胞においてGFP-PKCβ安定発現株を取得した。2)市販の抗PKCβモノクローナル抗体を蛍光標識し、この細胞にマイクロインジェクションした。3)細胞内でGFP-PKCβと蛍光標識化抗体が特異的に結合していることをFCSによって確認した。しかしながら、試験した7種の市販抗体は全て細胞内凝集性を少なからず示し、かつPKCβの機能を阻害した(ホルボールエステル刺激による細胞膜集積機能の喪失を確認)。4)このため標的タンパク質を所属研究室で研究実績のあるprotein4.1R(4.1R)に変更し、抗4.1R抗体産生ハイブリドーマよりモノクローナル抗体を調製の上、断片化(Fab化)を試みることとした。二価の結合部位をFab化により一価とすることで、抗原抗体複合体の多量体化を回避する狙いである。5)ハイブリドーマ4株の内3株より調製されたモノクローナル抗体は、それぞれ溶液中で4.1Rと特異的に結合することがFCSにより確認された。また、変異4.1Rタンパク質を用いた結合実験から、それらの結合部位は4.1Rの機能ドメインとは離れた領域であり、4.1Rの機能を阻害しないことが示唆された。6)現在これらのモノクローナル抗体のFab化、および蛍光標識化を進めており、調製でき次第、溶液中での結合実験と、GFP-4.1R発現細胞へのマイクロインジェクションおよび結合確認(FCS)を行う。
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