本研究では、感染症治療で問題となっているフルオロキノロン系薬(FQ)耐性菌の実態を把握すると共に、FQ耐性菌を迅速に診断する方法を開発することを目的とした。耐性菌の実態を把握することで耐性菌蔓延や院内感染を警告することができる。また、迅速診断法を確立することで適切な抗菌薬使用を導くことができ、感染症の難治化を防ぐことができる。 1.材料の準備とFQ耐性菌の疫学調査 本研究では関東の医療施設7施設(各300床以上)の協力のもと、FQ耐性菌の疫学調査を行った。大腸菌、エンテロバクター属、肺炎桿菌、プロテウス菌などについて、調査したところいずれの施設においても高い耐性率を示していたことが判った。特にプロテウス菌については2000年以降徐々にその耐性率は上昇していた。尿路感染症で重要なこの菌の耐性率が上昇していることは、抗菌薬の使用による耐性化や耐性菌選択による拡散など生じていることが推測された。耐性菌による難治化などが生じる可能性が大いにあり、今後もその動向を注視しその対策を講じる必要が求められる。 2.FQ耐性菌の迅速検出法の開発 感染症起炎菌の薬剤感受性を迅速に知ることで、抗菌薬適正使用による適切な治療を進めることが出来る。FQは臨床で頻用されている抗菌薬の一つであり、薬剤耐性菌を作らないためにも、迅速に起炎菌の薬剤感受性を把握することは重要である。FQ耐性菌の多くはその作用箇所であるGyrAとParCに変異を伴っているため、この変異を検出することが出来れば薬剤感受性を推測することが出来る。本研究にてPCR-RFLP法を応用して、耐性遺伝子の変異箇所の検出を試みたところ、いずれにおいてもGyrAとParCの変異と相関性のある良好な結果が得られた。腸内細菌でその評価系を確立することができたため、今後はアシネトバクターや緑膿菌など院内感染などでも重要視される細菌を対象としていく予定である。
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