大腸癌は進行すると予後不良であるため、早期診断や再発モニタリングを可能にする血中バイオマーカーが必要である。タンパク質リン酸化シグナルの異常は癌の原因となりうるため、その異常を早期に検出する事は癌の診断に有用だと考えられる。リン酸化プロテオーム解析はリン酸化バイオマーカー探索の最も良い方法の一つだが、血液検体の大規模なリン酸化プロテオーム解析は難しい。本研究では、先ず大腸癌組織のリン酸化プロテオーム解析により大腸癌のバイオマーカー候補を探索し、その中から血中検出が可能なリン酸化バイオマーカーを感度の良い方法で検証する。現在までに、定量的リン酸化プロテオーム技術(Phospho-iTRAQ法)を用いて、多検体の大腸組織手術標本を解析する方法を確立し、実際に非腫瘍部組織、大腸ポリープ(良性腫瘍組織)、大腸癌(悪性腫瘍)組織のそれぞれ6検体ずつを解析した。定量された5000種類のタンパク質リン酸化の中から、300種類の癌特異的リン酸化変動を見出した。いくつかのバイオマーカー候補については50検体以上の大腸組織で免疫学的手法を用いた検証を行った。これらの検証から、細胞生存関連シグナルが大腸癌で変動していることが示唆された。免疫学的手法でリン酸化変動の検証を行うには、リン酸化特異的抗体が必要となるため多くのバイオマーカー候補の検証ができなかった。そこで本研究では、リン酸化抗体を必要としないSelected reaction monitoring(SRM)法(質量解析計を用いた定量法)による検証方法を取り入れた。SRM法ではプロテオーム解析で同定された全てのリン酸化バイオマーカー候補が検証の対象であり、一度の解析で数十種類のリン酸化バイオマーカー候補を定量することが可能である。現在、リン酸化バイオマーカーの検証を進めており、有用性が示唆されたリン酸化に関しては、血中検出を検討する。
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