研究課題
胎生期の母体を介した感染、重金属曝露あるいは胎生期の低栄養が、胎児の出生後に与えるエピジェネティクな変化は、感染および曝露感受性の遺伝因子を研究する上で、環境変容が及ぼす次世代影響として新たに考慮しなければならない注目の生命現象である。また、経産により後世的に獲得される母体の環境適応機構が、後に出生する子の生存に有利に働く可能性があることを示唆する研究が報告されている。本研究では、妊娠初期の母体環境が後世の種々遺伝子発現に及ぼす影響を明らかにするため、ヒトを対象とした妊娠マラリアや重金属曝露や低栄養、また妊娠マウスでの実験的曝露による次世代影響を遺伝子型頻度および発現量とメチル化率によって比較検証することを目的とする。本年度は、インドネシア・スンバの対象ヒト集団において、経産女性を対象に子の出生と生存、生物学的父親との血縁に関するデータを収集し、解析を実施した。対象集団において、血縁婚の女性の方が血縁婚でない女性より多くの子供を出産し、また出生した子供の生存率が有意に低いことを報告した。胎生期の母体環境が後世の種々遺伝子発現に及ぼす影響について実験動物で検証を加えると共に、遺伝子型とメチル化率の関係が同母体からの出生順に影響を受けているかどうかを人類集団で実証した研究例はまだない。ヒトを対象としたフィールド研究と動物を対象とした実験研究の相補的な組み合わせにより得られる成果は、エピジェネティク機構として新しい知見を提供すると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
インドネシアで実施する現地調査の時期が予定より遅れたものの、収集データは計画通りに得られてきている。
計画ではマラリア感染を対象としていたが、対象集団においてマラリア罹患率が激減しているため、ヒト集団を模倣した動物実験ではマラリア感染モデルではなく低栄養モデルに集中させていくこととした。
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Letters on Evolutionary Behavioral Science
巻: 2(1) ページ: 9-12
The New Zealand Medical Journal
巻: 124(1333) ページ: 17-28