研究概要 |
小児のアレルギーの発症機序はいまだ不明瞭であり、明確な予防策も確立されていない。近年環境因子の関与が示唆されているが、分子疫学的見地から乳幼児を対象とした研究は国内外で少ない。よって今年度研究者は、現在までにサンプリングした対象者のうち未就学児を抽出し、分子疫学的研究を施行した。 【目的】分子疫学的手法を用いて、小児の喘息とPCB曝露の関係を示すバイオマーカーを探索することを目的として研究を行った。 【対象と方法】対象は平均月齢23ヵ月の未就学児30名(健常児15名、喘息児15名)である。児の保護者に質問票調査(同胞数、授乳形態、妊娠週数、両親の喫煙状況、児並びに両親のアレルギー疾患既往歴等)を行った。同時に児の血液を用いて、卵白・牛乳・小麦・ハウスダスト特異的IgE値(CAP-RAST)の測定、血清中PCB濃度の測定(#61+74,#99,#118,#138+146,#153,#156,#163+164,#170,#177,#178,#180+193,#183,#182+187,#194,#198+199)、リアルタイムPCR法を用いてIL8およびCOX-2のmRNA発現量を測定した。 【結果】健常児と比較し、喘息児の方にハウスダスト特異的IgE陽性者が多く認められた。その他の因子と喘息児間に有意な関連は認められなかった。次に健常児、喘息児それぞれにおいてPCB濃度とIL-8およびCOX-2との関係を調べた。喘息児においてのみPCB#163+164,#170,#177,#178,#180+193濃度とIL-8間に有意な相関が認められた。健常児、喘息児ともにPCB濃度とCOX-2間に有意な相関は認められなかった。 【結論】喘息児において血清PCB#163+164,#170,#177,#178,#180+193濃度が高いとIL-8 mRNAの発現量も高くなる可能性が示唆された。 この研究により、小児の喘息とPCB曝露の関係を示すバイオマーカーとしてIL-8が有効である可能性を示唆できたことは、環境因子とアレルギーの発症を検討する上で大きな一歩であると考える。
|