低出生体重児は成長後、生活習慣病を高率に発症することが報告され、この予防策を検討することは次世代への健康被害を回避することになる。前年度では、母体への持続的な小胞体(ER)ストレス負荷が、胎盤内グルコース動態変化などを介した低出生体重児発症のリスク要因であることを見出した。本研究では、(1)ERストレス誘導性の子宮内胎仔発育遅延に対する化学シャペロン(タンパク質のフォールディングを補佐する機能を有する外来性物質群)の胎盤内グルコース動態改善を介した胎仔発育遅延回復の可能性、(2)胎生期ERストレス負荷されたマウスに高脂肪食を摂取させ生活習慣病発症リスクを検討した。 1)化学シャペロンの一種である4-フェニル酪酸(4-PBA)処理は、ツニカマイシン(Tun)処理によって生じる胎仔および胎盤重量の低下を抑制した。また4-PBA処理した胎盤では、Tun処理によって生じたERストレス負荷レベルが低減され、合胞体栄養膜細胞の過形成範囲の縮小が観察された。さらに、4-PBAはTun処理によって生じた胎盤内グルコーストランスポーターの変調および血管形成に関わるアンジオポエチン/Tie系の発現量の低下の程度を抑制し、胎仔へのグルコース供給正常に近づけていることが示された。 2)胎生期でERストレスを負荷された雄性マウスでは、対照群と比較してインスリン抵抗性獲得やアディポカインの発現変化が認められ、成獣後の耐糖能異常を始めとする生活習慣病リスクが高まることが示唆された。一方、これらの現象は、雌性マウスでは認められなかったことから、胎生期のERストレス負荷は、出生後の生活習慣病発症に性差を生じさせる原因となりうる可能性を示した。
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