研究概要 |
高齢化に伴い認知症有病者の増加が懸念されている。本研究は食事を介した認知機能の低下予防を目的とし、10年以上実施されている地域在住中高年者を対象とした長期縦断疫学調査の蓄積データから、脂肪酸と認知機能との関連について検証するものである.脂肪酸摂取量は3日間の秤量式食事記録調査から算出し、認知機能は認知機能障害スクリーニング検査(MMSE:Mini Mental State Examination)およびウェクスラー成人知能検査を用いて評価した。さらに生体内脂肪酸濃度の一指標として血清脂肪酸濃度を用い、認知機能との関連性についても検討した。 本年度は横断的解析を中心に次の1から3の項目について検討した。1、脂肪酸摂取量と認知機能の関連:ロジスティック重回帰分析(調整要因:性・年齢・教育歴)からDHA(ドコサヘキサエン酸),EPA(イコサペンタエン酸),AA(アラキドン酸)摂取量5分位における「MMSE27点以下」に対するオッズ比は、EPA摂取量が最も少ないQ1群に対しQ2群0.54、Q3群0.50、Q4群0.68と有意にリスクが低下していた(p<0.05)。DHAまたはAA摂取量では、有意差は認められなかった。2、脂肪酸摂取量と血清脂肪酸濃度の関連:血清DHA,EPAは摂食量と有意な相関を示したが(ピアソンの相関係数・男女ともに0.2-0.4, p<0.05)、AAは女性では有意な相関は無かった。3、血清脂肪酸濃度と認知機能の関連:血清DHA,EPA、AA濃度の5分位における「MMSE27点以下」の者の割合に有意差は認められなかった。しかし総血清脂肪酸量に占める比率で検討すると、性・年齢・教育歴調整後、EPA(%)とAA(%)5分位では量反応関係は認められないものの、最も血清中の比率(%)が低いQ1群では「MMSE27点以下」のリスクが高かった。 以上より、DHA・EPAともに一定量の摂取は必要であるが、血清濃度と認知機能との関連を踏まえても、DHA・EPA摂取量が多い日本人では、DHA・EPAと認知機能の量反応関係は認められない可能性が考えられた。 しかし血清EPAあるいはAA(%)が低い群では「MMSE27点以下」のリスクが高く、引き続き、縦断的解析を中心に本申請課題について検討を行う.
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