研究概要 |
本研究は食事を介した認知機能の低下予防を目的とし、15年以上実施されてきた地域在住中高年者を対象とした長期縦断疫学調査から、脂肪酸と認知機能との関連について検証するものである。脂肪酸摂取量は3日間の秤量式食事記録調査から算出し、認知機能は認知機能障害スクリーニング検査(MMSE)およびウェクスラー成人知能検査を用いて評価する。さらに生体内脂肪酸濃度の一指標として血清脂肪酸濃度を用い、認知機能との関連性についても検討する。 脂肪酸と認知機能との関連を検討する上で、年齢が交絡要因として介在している可能性が考えられる。そこで本年度は認知機能との関連が報告されつつある不飽和脂肪酸(EPA, DHA,アラキドン酸)の血清脂肪酸濃度については、特に年齢群間差に注目した解析を実施した。高齢群ほど、血清EPA、DHA濃度は高値を示すこと、一方血清アラキドン酸濃度は低値を示すことを明らかにした。またEPA、DHAは必須脂肪酸であり血中濃度は食事による脂肪酸摂取量の影響を強く受けることから、食事摂取量を加味した解析を実施した。その結果、血清EPA, DHA,アラキドン酸濃度の年齢群間差は、食事による脂肪酸摂取量等を考慮しても消失しないことを確認し報告した。 一方で、n-3系およびn-6系多価不飽和脂肪酸摂取量と認知機能との関連を検討し、n-6系多価不飽和脂肪酸摂取量が多い群ほど、教育歴など多変量調整後も、ウェクスラー成人知能検査で評価した符号得点(情報処理能力)が高い結果を得た。さらに血中濃度と符号得点との関連性では、n-6系多価不飽和脂肪酸の中でも血清リノール酸濃度が高い群ほど符号得点が高く、ベースラインの血清濃度を調整しても、血清リノール酸濃度が高い群ではその後の符号得点の低下が少ない結果を見出した。このように認知機能と関連を有する可能性が高い脂肪酸の絞り込みを進めることができた。
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