【目的】漢方薬は、生薬を原料として製造される。生薬からは農薬が検出された事例があり、漢方薬に移行することが懸念されている。また、漢方薬に残留する農薬の分析結果がほとんど報告されていないことから、漢方薬の利用については不安の声がある。 今回、我々は漢方薬の安全性を確認することを目的として、既に報告している一部の漢方薬を対象とした有機塩素系農薬およびピレスロイド系農薬の分析法を用いて市場に流通する漢方薬中の残留農薬の実態調査を行った。 【方法】測定対象農薬は、日本漢方生薬製剤協会が一部の漢方薬を対象として、自主基準としての残留基準を定めている有機塩素系農薬8種類、ピレスロイド系農薬2種類とした。また、分析方法は、夾雑物の影響を受けにくいガスクロマトグラフ/質量分析計の負化学イオン化モードを用いることとした。 【結果】有機塩素系農薬は11種類、ピレスロイド系農薬は15種類の漢方薬について、既に報告している分析法の妥当性を確認したところ、残留農薬を適切に分析できることが確認できた。わが国で生産および輸入金額が上位20種類の漢方薬(148製品)を対象として実態調査を行ったところ、対象とした有機塩素系農薬およびピレスロイド系農薬の残留量は定量限界以下であった。 【まとめ】今回、148製品の漢方薬について実態調査を行ったところ、その残留量は定量限界以下であったことから、近年わが国で流通している漢方薬は高濃度の農薬に汚染されていないことが示唆された。しかし、実態調査を行った品目は、市場に流通している漢方薬の一部であるため、今後も実態調査を継続し、「漢方薬中の残留農薬の実態」を解明する。
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