【目的】漢方薬は、生薬を原料として製造される。生薬からは農薬が検出された事例があり、漢方薬に移行することが懸念されている。また、漢方薬に残留する農薬の分析結果がほとんど報告されていないことから、漢方薬の利用については不安の声がある。一方で、生薬の水抽出液から製造される漢方薬には脂溶性の農薬は移行しにくいことが報告されている。 本研究では漢方薬の安全性を確認することを目的とし、市場に流通する漢方薬を対象として残留農薬の実態調査を行った。また、試料由来の妨害を受けにくい分析法についても検討を行った。 【方法】測定対象農薬は、日本漢方生薬製剤協会が一部の漢方薬を対象として、自主基準としての残留基準を定めている有機塩素系農薬8種類、ピレスロイド系農薬2種類とした。 【結果】ガスクロマトグラフ/質量分析計の電子イオン化法と負化学イオン化法を比較したところ、今回対象とした農薬を分析する場合には、負化学イオン化法がより高い選択性を示した。このことから、ガスクロマトグラフ/質量分析計の負化学イオン化法を用いて分析法の検討および実態調査を行うこととした。5種類の漢方薬(48製品)を対象として分析法の妥当性を確認した上で、実態調査を行ったところ、対象とした有機塩素系農薬およびピレスロイド系農薬の残留量は定量限界以下であった。 【まとめ】今回、48製品の漢方薬について実態調査を行ったところ、その残留量は定量限界以下であった。昨年度の実態調査についても同様の結果が得られていることから、近年、わが国で流通している漢方薬は高濃度の農薬に汚染されていないことが示唆された。
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