前年度の研究の中で確立した塩酸酸性条件(PH=2)における脂肪抽出方法と硫酸および硝酸銀カラム処理による精製操作を使用した母乳中水酸化PCBレベルの調査を行った。試料には2008年度に採取した母乳試料を混合し脂肪抽出処理前の状態で冷凍保存していたもの(100g)を使用した。前処理に際し、併行して添加回収試験を行なった。その結果は、内部標準物質補正した回収率で71~107%であった。分析には液体クロマトグラフ/タンデム質量分析計を使用した。2008年度混合母乳試料を分析した結果、抽出脂肪重量は4.6%で今回分析対象とした水酸化PCB(40H-CB107、30H-CB138、40H-CB146、40H-CB187、40H-CB172)はいずれも検出されなかった。検出下限は2 pg/g wet weightであった。このことから母乳中に存在する水酸化PCB濃度は報告されている血液中濃度に比べて極めて低いことがわかった。これは、水酸化PCBが血液中において甲状腺ホルモンであるサイロキシン輸送タンパクであるトランスサイレチン(TTR)に結合するなどして血中から母乳には移行し難いことが示唆された。母乳中の総PCB濃度は10 ng/g wet weightであった。今回の実験結果から、乳幼児の神経、脳の発達に作用を及ぼす可能性のある水酸化PCBが母乳経由で乳児に移行する危険性はほとんどないことが示唆された。
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