エフェドリン類は、漢方薬である「麻黄」に含まれる成分であり、長年にわたって血管収縮剤として一般市販薬の鼻炎薬、風邪薬等、あるいは脱法ドラッグの成分として使用されてきた。しかしながら、エフェドリン類服用患者において、脳出血、肝機能障害、精神障害など多くの副作用に関する症例報告があり、脱法ドラッグなどによって引き起こされるエフェドリン中毒は、非常に致死的であると考えられる。しかしながら、現在もエフェドリンによって誘導される細胞死シグナル伝達経路の詳細は明らかとなっておらず、特に神経系に関しては、動物実験における行動観察から中枢神経系に対する強い毒性を示すことが報告されているが、その細胞毒性の詳細な作用機序も未だ明らかとなっていない。そこで本研究では、ヒトSH-SY5Y細胞を神経細胞様に分化した、ノルエフェドリンを暴露することで神経細胞に対する毒性を検討した。その結果、SH-SY5Y細胞にノルエフェドリンを暴露させると、顕著な細胞死が誘導され、また細胞内に多数の空胞状の形態が観察された。これら空胞の形成はオートファジー阻害剤である 3-Methyladenine処理では阻害されず、リソゾーム酵素の阻害剤であるAmmonium chloride処理により顕著に阻害された。また、リソゾームマーカー蛋白質であるLAMP1が、ノルエフェドリンにより形成される空胞に局在していることが観察された。以上の結果から、ノルエフェドリン暴露によりリソゾーム由来の空胞が多数形成され、神経細胞に毒性を示すことが示唆された。
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