研究概要 |
特定の水棲微生物を指標として溺死の診断に役立てる試みはこれまでに数多く報告されている.しかし,実際に溺死体の血液および臓器中にどのような種類の水棲微生物(藍藻,細菌,古細菌,珪藻,鞭毛藻,緑藻など)がどのような割合で,広く存在しているのか明らかにされていない.そこで,これらを明らかにするために,本研究ではまず藍藻,細菌及び珪藻(葉緑体)に共通して存在し,最もデータベースが構築されている16S rRNA遺伝子に着目した.即ち,これら微生物の16S rRNA遺伝子には,微生物間で共通する保存領域と,属ないし種レベルでの識別が可能な可変領域が存在する.そこで保存領域に設定した一組のプライマーセットを用いて可変領域を増幅し,ピロシーケンス法を用いて網羅的に解析すれば,難培養性の微生物群も含め広く群集構造を明らかにすることが可能と考えた.特に珪藻以外の水棲微生物についてはその情報があまり明らかにされていないことから,珪藻の少ない水域で溺死した場合に貢献できるのではないかと考えられる.上記微生物間のアライメント解析の結果,可変領域であるV7及びV8領域を挟む位置に,高度に保存された領域が存在し,本研究ではこの領域約300bpを増幅し解析することとした.また上記プライマーを用いてこれまで我々が主に溺死例から単離した細菌48種について増幅を試みたところ,すべてに増幅が確認された.次いで実際の淡水溺死例及び海水溺死例のそれぞれ2例について,血液(左心血,右心血,大腿静脈血),臓器(右肺下葉内部,左肺上葉辺縁部,腎臓,肝臓)及び現場水からDNAを抽出し,目的の領域を増幅させた.今後,100万個のフラグメントを一度に解析可能な次世代シークエンサーGS FLX (Roche)を用いて各試料を解析し,群集構造を明らかにしていく.
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