研究概要 |
既報に従って、ラット脳挫傷モデルを作成した.Wistar/ST雄ラット(体重300g前後)に対しエタノール(3g/kg体重)もしくは酸化的ストレス誘導剤であるDL-Buthionine-(S,R)-sulfoximine(BSO)を腹腔内投与後1時間で脳挫傷を作成した。脳挫傷後24時間で脳をMRI(7T)で撮影すると、エタノール投与群およびBSO投与群で有意に脳浮腫が増大した。また、挫傷脳から蛋白を抽出し、aquaporin-4(AQP4)のwestern blottingを行うと、エタノール投与群で脳挫傷後24時間における発現の有意な上昇を認めた。これは、脳を用いた免疫組織化学的評価においても同様の結果であった。酸化的ストレスの評価としてglutathione peroxidase(GPx)活性、MDA活性(脂質過酸化)を測定したが、BSO投与群では脳挫傷後24時間でGPx活性が有意に上昇し、エタノール投与群ではMDA活性が脳挫傷後24時間で有意に上昇した。脳の抽出核タンパクにおける転写制御因子であるNF-κB,HIF-1α活性はエタノール投与群において、脳挫傷後24時間で活性が上昇した。採取した血液において、生化学検査を行ったところ、エタノール投与群において、脳挫傷後24時間でのナトリウム濃度が有意に低下し、低ナトリウム血症を呈していた。さらにAQP4阻害剤であるacetazolamideを投与すると脳挫傷後脳浮腫が軽減した。これらのことからエタノールは、酸化的ストレス特に脂質過酸化を増大させ、転写制御因子であるNF-κB,HIF-1α活性させることでAQP4の発現を上昇し、脳浮腫増大を招く経路が考えられる。エタノールおよび脳挫傷の病態に低ナトリウム血症がどのように関わるのかは今後の研究課題の一つである。
|