QT延長症候群は多型性心室頻拍や心室細動、ひいては突然死をきたしうる症候群である。一方、向精神薬は薬剤誘発性QT延長症候群の主な原因薬剤とされている。本研究は、原因不明の突然死事例のうち向精神薬の服用が明らかな事例について、その遺伝素因を検索することにより、(1)突然死の病態解明に寄与する、(2)類似の遺伝背景をもつ遺族が同症候群や突然死の発症を予防する、ことを目的としている。 兵庫医科大学法医学講座および兵庫県監察医務室で検案・解剖した事例のうち、解剖によっても死因が明らかにされなかった突然死事例であり、かつ、生前に向精神薬を服用していたことが現場の状況や死後の薬物分析の結果から明らかである10事例について検討する予定であった。しかし、今年度は経験した事例が少なく、また、ご遺族の同意が得られなかった事例もあり、11件のみについて検討を行った。 対象1例について、KCNQ1、KCMi2およびSCN5Aのすべてのエクソンについてダイレクトシーケンス法で遺伝子変異の有無を検討した。しかし、いくつかの一塩基多型は見られたものの、検討した1例については不整脈死につながるような遺伝子変異は見つからなかった。 来年度は、対象事例を増やしたいが、これが困難である場合、本研究の対象である薬剤誘発性QT延長症候群のみならず、一般に原因不明の突然死の死後遺伝子検査にも対応しながら、形態的には原因不明の突然死事例の病態解明に寄与したいと考えている。
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