法医解剖症例の中から、心臓突然死が疑われる症例のうち、器質的変化を認めなかった8例について、血液からDNAを抽出し、遺伝性致死性不整脈の原因遺伝子の一つであるSCNSA遺伝子の変異を検索した。SCN5A遺伝子の翻訳領域のエキソンについて、ダイレクトシークエンス法で変異の有無を探索したところ、1例において、エキソン20の1192番目のアミノ酸ArgがGlnに置換したヘテロ接合体変異が認められた。これは過去に、Sudden Unexpected Noctumal Death Syndrome(SUNDS)の患者で発見された変異であった。Arg 1192 Glnの変異により、Naチャネルが不活性化される可能性があると報告されている。他の7例には、アミノ酸置換を伴う変異は認められなかった。 また、病理学的検索の結果、不整脈源性右室心筋症(ARVC)で死亡したと考えられる3例について、血液からDNAを抽出し、TGF-β3遺伝子並びにDSP遺伝子の変異を検索した。TGF-β3遺伝子の全てのエキソンについて、ダイレクトシークエンス法で変異の有無を探索したが、変異は認められなかった。DSP遺伝子の全てのエキソンについて、同様に変異の有無を探索したところ、1例において、エキソン12の494番目のアミノ酸TyrがPheへ置換したホモ接合体変異と、エキソン24の2869番目のアミノ酸IleがValに置換したヘテロ接合体変異が認められた。これらの変異の疾病への影響について、現在考察中である。
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