進行膵がんでは、悪液質を認めた患者は極めて予後不良であるが、有効な治療は確立していない。そのため、悪液質改善作用を有する抗腫瘍剤の有用性が強く示唆される。そこで、本研究は、炎症性サイトカインに着目して悪液質誘導分子を同定し、その阻害薬の開発を目指す。平成22年度は、A)抗悪液質療法に適した標的分子の同定、B)マウス悪液質モデルの確立、を目的とした。以下に結果を記載する。 計画A)抗悪液質療法に適した標的分子の同定に関する臨床研究 対象症例:切除不能膵がん症例で、初回治療として全身化学療法が予定されかつ投与可能である症例のうち、本研究への参加について患者本人から文書で同意が得られた患者 方法:炎症性サイトカインの血中濃度を測定し、全身状態の低下、倦怠感、体重減少、低栄養、炎症反応の亢進、などの悪液質症状との相関を検討して、悪液質と強い関わりのあるサイトカインを抗悪液質療法に適した標的分子として同定する。 結果:インターロイキン6(IL-6)高値の膵がん患者は悪液質を呈して予後不良となるが、インターロイキン1(IL-1)が上昇することでさらに生命予後が短縮する。IL-6は悪液質の原因分子として有力と考えられた。 計画B)マウス悪液質モデルの確立 方法:膵がんの特徴的で悪液質との関連を認める膵がん神経浸潤のマウスモデルを作製し、摂食量の伴わない体重減少である実験的悪液質を評価した。 結果:膵がん神経浸潤マウスモデル(N-inv)では、皮下腫瘍群(SC)およびsham群(PBS)と比較して、摂食量の伴わない体重減少を認め、悪液質モデルとして妥当である。膵がんの浸潤様式に着目して確立されたはじめての癌性悪液質モデルであり、本モデルは癌性悪液質を改善させる作用が期待される薬剤を用いた前臨床試験の実験モデルとして有用であることが示唆される。
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