進行膵がんでは、悪液質を認めた患者は極めて予後不良であるが、有効な治療は確立していない。そのため、悪液質改善作用を有する抗腫瘍剤の有用性が強く示唆される。そこで、本研究は、炎症性サイトカインに着目して悪液質誘導分子を同定し、その阻害薬の開発を目指す。平成22年度は、A)抗悪液質療法に適した標的分子の同定、B)マウス悪液質モデルの確立、を目的として研究を行い、インターロイキン6(IL-6)高値の膵がん患者は悪液質を呈して予後不良となるためIL-6は悪液質の原因分子として有力と考えられ、膵がん神経浸潤マウスモデルは、皮下腫瘍群(SC)およびsham群(PBS)と比較して、摂食量の伴わない体重減少を認め、マウス悪液質モデルとして妥当と考えられた。H23年度は、C-1:マウス悪液質モデルにおけるIL-6発現、C-2:IL-6阻害による神経浸潤への影響、C-3:IL-6阻害によるマウス悪液質モデルにおける病状への影響、について研究した。C-1:各種マウスモデルの血中マウスIL-6濃度を測定すると、神経浸潤マウスモデル160pg/mL(中央値)、坐骨神経貫通挫滅群20pg/mL、sham群20pg/mLであり、神経浸潤モデルで有意にマウスIL-6血中濃度が高値であった。マウスの各臓器のmRNAを用いて定量的RT-PCRにてマウスIL-6mRNA発現分布をみると、脊髄においてマウスIL-6mRNA発現が高かった。マウスより採取される血液量が少なくヒトIL-6は測定できなかった。C-2:IL-6 siRNAやIL-6受容体抗体を用いて、ヒトIL-6もしくはマウスIL-6を阻害すると、ヒトおよびマウスIL-6阻害により神経浸潤が抑刮される傾向にあった。膵がん細胞をIL-6でin vitroにおいて刺激すると、wound healing assayおよびchemotaxis assayにおいて遊走能が亢進することを確認した。なお、ウエスタンブロットによりIL-6刺激による腫瘍細胞内STAT3、Erk1/2、Aktのリン酸化を検討したところ、STAT3のリン酸化が早期に強く認められた。C-3:ヒトあるいはマウスIL-6受容体抗体を神経浸潤マウスモデルに投与したところ、神経浸潤は抑制される傾向にあったが病状に変化を認めなかった。
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