研究概要 |
B型肝炎ウイルス(HBV)感染は世界的な問題の一つであり、約3億人のキャリアがいると推定されている。HBVの塩基配列には多様性があり、10の遺伝子型(genotype)があることが明らかにされてきた。日本ではgenotypeA,B,Cが主に認められるが、genotype間で臨床経過に差があることが示されている。また、遺伝子変異の病態への影響も臨床・基礎研究により議論されているが、世界的にはまだ一定の見解が得られていない。その結果の相違はHBVのgenotypeやsubgenotypeの違いによる可能性がある。本研究ではgenotypeの違いやHBVの変異がウイルス複製へ与える影響をin vitroのHBV複製系で明らかにすること、さらに感染細胞へ与える影響をを目的とした。 昨年度の研究では劇症肝炎を生じる頻度が高いことが報告されているgenotype B1/BjのHBVの特徴について解析を行い、劇症肝炎株にはprecore領域のframeshiftを生じる1塩基の挿入あるいは欠失が多く認められたことを報告した(J Infect Dis 2011)。今年度は解析範囲をさらに広げ、劇症肝炎患者のHBVの全ゲノム配列を決定してgenotype別にデータベース上の非劇症肝炎株との比較を行った。すると興味深いことに、劇症肝炎の頻度が高いgenotype B1/Bjにおいてcore proteinの21番目のアミノ酸を変化させる1961/1962番目の塩基変異が劇症肝炎の全例に認められた。当院および近隣の病院のB型急性肝炎の血清を用いて同変異を解析してみると、軽症の急性肝炎例にはほとんど認められなかった(論文投稿中)。この変異はHLA-A2拘束性CTL epitope内に存在していたが、劇症肝炎・急性肝炎例ともに患者のHLA-A2の有無とは関連を認めなかった。この変異をin vitroのHBV複製系に導入してウイルス複製効率を検討すると、培養上清中に放出されたウイルス量が増加する一方で細胞内の複製中間体は増加しておらず、この変異はウイルスの放出を促進する効果があるものと考えられた。この結果は特にgenotype B1/BjのHBVによる劇症肝炎の病態理解の一助となるものと考えられた。
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