“非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)におけるSTAT3の役割”を (1)細胞特異的STAT3ノックアウトマウスを用いた実験系と(2)臨床検体を用いた実験系により解析を行った。 まず、(1)細胞特異的STAT3ノックアウトマウスを用いた実験系において、肝細胞特異的STAT3ノックアウトマウスおよび、マクロファージ/好中球特異的STAT3ノックアウトマウスに、NASHの実験モデルであるメチオニンコリン欠乏食(MCD食)負荷を行い、(A)炎症および(B)脂質沈着の観点から検討を行った。 第一に、MCD食の負荷により肝細胞特異的STAT3ノックアウトマウスではMCD食開始後3日から2週間では、野生型マウスに比較して、肝臓における有意な脂質沈着と血清中の中性脂肪の上昇を認めたが4週間および8週間の投与では有意な差を認めなかった。このMCD食開始早期の、脂質沈着にはSREBP1cの発現亢進および活性化が関与していることが示唆された。一方で、炎症性サイトカインや炎症細胞の浸潤に差は認めず、肝細胞におけるSTAT3は脂質合成を抑制する役割を果たしていることが示唆された。 第二にマクロファージ/好中球特異的STAT3ノックアウトマウスにおいては、MCD食開始3日目より、野生型マウスに比較して著名な炎症性細胞浸潤をみとめる一方で、肝臓における脂質沈着は軽度であった。この現象は4週間、8週間投与の時点でも確認された。このメカニズムとして、炎症細胞はIL-6をはじめとするサイトカイン産生を介して、肝細胞におけるSTAT3を活性化することにより、抗脂質沈着に作用することが示唆された。 (2)臨床検体を用いた実験系においては、免疫染色による検討において、NASH患者の肝生検サンプルでは、脂肪肝患者と比較して、肝細胞および炎症細胞におけるSTAT3の活性化が亢進していることを明らかにした。
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