肝臓は再生能力が旺盛であり、急性、慢性肝障害時、肝幹前駆細胞が出現し肝再生に寄与するが、本研究は、肝幹前駆際細胞の理解を基盤とした肝再生医療、肝細胞癌治療を目指すものである。 はじめに人研究の前段階として肝幹前駆細胞が産生するケモカインSDF-1の役割をそのレセプターであるCXCR4 conditional knock out慢性肝障害マウスを用いて行った。その結果、CXCR4 conditional Konck outマウスは慢性肝障害時、障害を強く受けやすく再生も遅延しやすく肝繊維化も進展しやすいことがわかった。したがってSDF-1/CXCR4シグナルは肝再生にとって非常に重要な因子であることがわかった。肝障害時にはSDF-1/CXCR4シグナルを阻害する要因がいくつか知られており、今後これらをターゲットとした薬剤開発を検討している。これらの結果は現在論文投稿中である。 また一方、肝幹細胞マーカーを発現する肝細胞癌が予後が悪いことが知られているが今回我々は肝幹細胞マーカーNCAMを用いて肝細胞癌患者の予後を調べることを行った。NCAM陽性肝細胞癌は手術症例の10%弱に見られ、また患者血清よりELISA法にてsoluble NCAMを調べると肝細胞癌患者で高く、その数値が高い患者の予後が悪いことがわかった。また、肝細胞癌患者でSoluble NCAM高値群では特定のNCAMのisoformが強く発現しており、予後不良の原因である可能性が推定された。これらの結果は肝幹前駆細胞マーカーを発現する肝細胞癌の従来の報告と矛盾せず、本研究では更に血清診断、治療方針決定に役立つ可能性まで踏み込むことができ従来の研究成果より一歩進めたと考える。この結果はCancer Lett 2011 Oct 1;309(1):95-103にまとめることが出来た。今後これらの結果を踏まえ、なぜNCAMを発現する肝細胞癌は予後が悪いのかその機序の解明を始めたところである。 このように二つの成果を得ることが出来た。またそれぞれに付いて、治療への可能性も今後追求できると考えている。今後英国エジンバラ大ともこれらの成果を踏まえ共同研究が行えることになり非常に有意義であったと考える。
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