研究概要 |
本研究は、胃粘膜内へのHelicobacter pylori (HP)感染における上部消化管疾患(胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃癌など)の多様性を規定する因子の一つとして考えられているレニン-アンジオテンシン(renin-angiotensin, RA)システムの胃粘膜内における生理活性メカニズムを、胃癌細胞株あるいは動物スナネズミモデルにHPを感染させることによって解明することを目的としている。また、RAシステム阻害薬であるアンジオテンシ変換酵素(ACE)阻害薬とアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)投与することによる胃粘膜内の抗炎症作用や化学発癌予防効果も検討し、高齢者社会を迎える中での同薬剤投与による胃癌発癌予防の可能性を探ることも目的として立案された。 本研究により、HP非感染スナネズミでは胃粘膜中のRAシステムの各因子の発現は低値であったが、HP感染スナネズミモデルで、アンジオテンシンIIタイプI受容体(AT1R)やタイプII受容体(AT2R)は高発現し、感染後の時間経過によって発現レベルが徐々に増加することが認められた。それは、病理組織学的に胃粘膜内の単核球を含めた炎症細胞浸潤の程度とも明らかに相関をしており、HPの病原因子の一つであるdupAやcagAなどのHPの菌側の要因の存在や活性度と関与していた。また、AT1RとAT2Rの発現量は、お互いに相関をしており、RAシステム内での独自の調節機構が存在していることが考えられる。更に、胃粘膜内の炎症に関与している炎症性サイトカイン値とも有意に相関していた。
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