生命の設計図は遺伝子で構成されているが、環境的要因などの影響もあり、実際には多くのタンパク質や代謝産物がその生命活動を担っている。そのため、各種疾患におけるタンパク質代謝産物の変動は遺伝子の発現量よりも、ダイナミックである可能性がある。本提案課題では、アミノ酸や有機酸、糖、脂肪酸など低分子代謝産物を網羅的に測定が可能な、高感度クロマトグラフィーと質量分析計を組み合わせた複合解析システムを使い、大腸がんに対するメタボローム解析を実施した。なお、本研究では、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)使用した。 大腸がん患者(n=12)、健常人(n=12)の血清のメタボローム解析を実施し、また、大腸がんの比較対象として食道がん患者(n=12)と胃がん患者(n=11)の解析も同様に行った。その結果、各がん種と健常人においてそれぞれ血清代謝物存在パターンが異なるということを多変量解析のひとつである主成分分析(PCA)により確認できた。さらに、代謝物ターゲット解析において、各がん種間で特異的に変動する代謝物として、食道がんではマロン酸を、胃がんではピルビン酸と3-ヒドロキシプロピオン酸とを、大腸がんではアラニンとグルクロン酸ラクトン、グルタミンをそれぞれ見出した。これらの結果は、大腸がんの発症により体内のメタボローム、特に、血清メタボロームが大きく変動し、かつ、その変動は疾患に特異的なものである可能性を示している。今後、他施設研究も含めた血清メタボローム解析の大規模試験が必要となってくるが、これらの結果は、メタボローム解析が疾患特異的な診断手法として臨床に応用できる可能性を示唆している。
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