研究概要 |
本研究では、選択的スプライシング因子Tra2βの機能解析を行い、消化管細胞において酸化ストレスにより発現が誘導される、premature termination codon(PTC:中途終止コドン)をコードするtra2β4RNAバリアントの生理学的役割を解明することを目的とした。PTCをコードする約200塩基のエクソンは、進化の過程で齧歯類以降にトランスポゾンとして組み込まれた"ultraconserved element"であり、種を越えて保存されている。tra2β4のexon 2を特異的にノックダウンした大腸上皮細胞株HCT116細胞では3,000以上の遺伝子発現が変化し、G1/S期での細胞周期の停止、細胞増殖の低下が認められた。これらのことより、タンパク質に翻訳されない、ストレス誘導性PTCバリアントであるtra2β4mRNAに着目し、exon2領域に相互作用する因子の同定(RNA結合タンパク質・マイクロRNAの関与)を行い、tra2β遺伝子のexon2領域を介した新規RNAネットワークの制御機構の解明を目指した。 平成22年度の研究において、1)大腸上皮細胞株HCT116細胞におけるtra2βノックダウン実験系により、tra2βは抗アポトーシス因子bcl-2 mRNAの転写後調節に関与し、アポトーシス耐性を示すこと、2)tra2β4mRNAは細胞老化関連因子群の発現調節を介し細胞老化に関与すること、3)tra2β遺伝子のプロモーター解析により、酸化ストレス応答により転写調節を受ける領域と転写因子HSF1の関与すること、を見出したtra2β遺伝子は、tra2βタンパク質に翻訳されるtra2β1 mRNAと、機能性RNA分子として作用するtra2β4mRNAが、それぞれ異なった作用機序を介し細胞機能調節を行っているという重要な知見を得た。
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